(このお話は、こちらの話とリンクしています)

「お父さん、あたし彼氏出来たの。」


ぼそり、と。聞こえるか聞こえないかの瀬戸際くらいの音量でそう呟く。
すると先ほどまでにこにこだったお父さんの顔は、みるみる泣きだしそうな顔に変わっていく。あたしは以前もこの顔を見たことがある。呼び名を”パパ”から”お父さん”に変えた時もこんな顔をしていた。
お父さんと一緒に寝なくなった日も、お人形さん遊びの誘いを断った日もこんな顔をしていた気がする。
・・つまり、あたしのお父さんは自他認めるザ・親バカである。


「え、か、かれし、か?」
「そう。同じクラスの丸井くん。」
「ま、るい!?」
「・・・丸井、秀太くんだよ。お父さんの友達丸井おじさんの息子。」
「〜、うそ、だろ?」


お父さんはまさにこの世の終わりだ!という顔をして、がたりと椅子を立ち上がった。そして力弱くあたしの肩を掴んだ。お父さんの眉毛がなさけなく八の字に下がっている。ああ、けっこうイケメンだと思うのに少しもったいない。


「ほんとだよ。」
「こ、こっく、告ったのはどっちからなんだ、」
「秀太から。」
「シュータ!?呼び捨て!?」


お父さんの顔はついに、悲しみを通りすぎて怒り爆発の一歩手前、そんなような顔になってしまった。
するとお父さんはどだだだだ、と騒がしく動き回り、家の受話器を手に持つと震えた指でボタンをプッシュしていく。
・・・丸井おじさん、ごめんなさい。あたしは悪くない、筈、です・・・。


「あ、ブン太か!?おれ、俺だ!亮だよ!お前の息子・・・秀太、あいつ!なにやってんだ!!――ああ!?お前がくっつけたのか!?・・・・・・・・あ?長太郎?長太郎もそこにいんのか?――っておい、逃げんな!・・ああ、長太郎?うん・・・・いや、だって!・・・・・うん、まあそうかもしんねーけど・・え、風呂?あー、最近は入ってくんねえ。そういえばポケモンごっこも最近やってくんねーよ。俺、まだたまに練習してんだけどな。フシギダネとか上手くなったんだぜ。・・・・思春期?うそ、マジで?・・・・うん、うん。・・・俺だって、そんくらい分かってるよ。」


父さんのマシンガントークは終わりをしらない。こうなったら30分は長太郎おじさんがお父さんをなだめているだろう。
なんだか、恥ずかしいなあ。秀太に連絡とってみようかな。なんて思ったあたしは、ポケットから携帯を取り出し秀太に電話をかけた。


「もしもし・・あ、急にかけてごめんね?うん・・・・・あはは、やっぱり?電話かかってきた?ごめんね、迷惑かけて・・・・うん、・・え?今から?駅、に?あ、うん。ちょっと待って」


秀太からのお呼び出し。今は6時とは言え段々暗くなってくる時間だ。あたしはお父さんに許可を取ろうとちらりと顔を見やった・・・のが、間違いだった。
お父さんはあたしと秀太の会話を聞いていたのだろう。先ほどよりも数十倍泣きそうな顔になって、慌てて電話をきってこちらへ駆け寄ってきた。
そして半ば強引にお父さんはあたしの携帯を取り上げた。


「もしもし、電話変わった。・・・亮、お義父さん!?しゅ、秀太にお義父さんなんて呼ぶ資格はない!・・・ああ、分かった!テニスで勝負だ!いいか?俺が勝ったらもう二度と俺の娘に近付くな!ああ。分かった!ぜってー負かしてやるからな!ああ、今行く!じゃあな!」


何だか面倒臭い展開になってしまった。お父さんは「ぜってー負けねぇ・・・!」と呟き自分の部屋に飛び込んでいったかと思うと、ラケットを背負って家を慌てて出て行ってしまった。まったく、世話のやけるお父さんである。

・・ちなみにこの後、お父さんはムキになって本当に秀太をこてんぱんに負かしてしまった。「ごめんね」と謝ったあたしに対し、秀太くんは「あー、もう。ムカつく・・」と呟き、父さん達(丸井おじさんとか長太郎おじさんもいたので)の前であたしになんとキスをおみまいしてくれやがったのだ。その後のことは・・大体予想がつくだろう。一応察していただきたい。



うましかもの。