「よーし、今日は部内で練習試合するわよー!」


嫌になるくらい青い空の下、モモカンの言葉に顔を顰める部員達。モモカンはそんな教え子達の反応を見て更に嬉しそうに顔を綻ばせ、ポケットからメモの切れ端を取り出し次々と読み上げていった。


「マネにも入ってもらって6人チームで試合を行ってもらうわ。ショートはナシ。勿論マネは各チームに1人ずつ。それぞれセンターを守ること。後の5人は内野を守る。――一応、この練習試合で色々なデータを取らせてもらうからそのつもりでね」
「6人で試合・・ヒット打たれたら終わりじゃないっすか!」
「良くぞ気が付いた花井くん。だから部員の君達は打たれないよう頑張るしかないのだ!あ、時間の関係上5回までやって得点が高い方が勝ち。負けたチームは外周10週!」
「・・・」


外周、10週。この無駄に広すぎる西浦高校の周りを、10週。考えただけでも気が遠くなる。だけど――モモカンは、本気だ・・!
田島とは「うわー面白そー!」とにこにこしているが他の部員達に言わせてみればとんでもない事である。何としてもこの試合は勝たなければ。


「じゃあAチーム発表するよ。
 キャッチャー阿部、ピッチャー花井、ファーストは巣山、セカンド西広、サード水谷でセンターがちゃんね」
「「「え゛っ」」」
「やったあ、同じチームだねー、頑張ろうね!」
「おう。あ、宜しくな阿部」
「頑張ろうな。あ、サインどうしよっか」


盛り上がるAチームを他所に、静まり返るのは名前を呼ばれなかった部員達。特に三橋は顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうだ。
田島も明らかに不機嫌な表情を丸出しにし、そんな2人を苦笑いしながらも「が、頑張ろうね」と元気付ける千代と栄口。泉も内心はこんちきしょう、クソレフトめ俺と変われ、なんて考えていたが表面上は「絶対勝とうぜ!」の一点張りだ。


「はいはい静かにね!Bチームは
 キャッチャー田島、ピッチャー三橋、ファースト泉でセカンドは栄口。サードが沖。そしてセンターは千代ちゃん!」


お、お、おれ、あ、あ、あ、あべくん
冷や汗をだらだら流しながらも阿部に助けを求めるような視線を送る三橋。そんな三橋に気づき、阿部は無意識に留めの一言を。


「今日は敵同士だな。手ぇ抜くつもりはないから」


三橋の動きが、止まった。



* * *



「とりあえず打順、どうする?」


チーム発表後、モモカンが10分間の時間を取ってくれた。が属するAチームはとりあえず、と輪になって固まっていた。


「あたし1番行くよ!三橋くんの状態とか見てくる」
って野球上手いのか?」
「悠一郎くんとよくやってたよ。詳しいルールは分からないんだけど、とりあえず1周すれば1点だよね」


にこにこと笑いながらそんな台詞を吐くに、Aチームの面々は呆れを通り過ぎて試合前だと言うのに気の抜けた笑顔になってしまった。
 

* * *



「で、さんって野球上手いの?」
はー、うん、まあ上手いよ。でも」
「ん?」
「でもルール全然知らない」


田島の言葉に5人が耳を傾ける中、丁度聞こえてきた言葉は「とりあえず1週すれば1点だよね」という気の抜けた声。そしてその後に続く気の抜けた笑い声。
なるほど、田島の言う通り確かに分かって居なさそうだ。


「じゃあちゃんは大丈夫だね。やっぱり気になるのは阿部くん、花井くんだなあ」
「あっ、阿部くん、は!凄、い人、だよ!お、俺」
「だーいじょうぶだって!俺がしっかりリードする!」
「た、田島、くん!」
「そうそう。俺らもついてるし。ねっ、泉!」
「おう。勝とうぜ」
「センターが楽になるようすっげー頑張る」
「ありがとう沖くん」


目を見合わせ、頷き合うBチーム。固く結ばれた結束力を実感していたのだが、「悠一郎くんも凄いけど、あっちのチームはみんな凄いよねー!千代ちゃんだってほんっとすごくて・・!あ、これ秘密だよ?」というの言葉に千代も含め全員の真顔が崩れ締りの無いにやにやとした笑顔になってしまった。