「おはようございます」
「おはよう、


バレンタインデー翌日。忍足さんは朝からチョコレートを食べていた。そんなに甘いもの、朝から食べても平気なんですか?と問うと、忍足さんはにこりと笑って「ちょっと大変やけど。出来るだけ食べたいやん」と言った。

なんだろう。今日の忍足さん、機嫌がすごく良い気がする。

そのまま忍足さんが食べていたチョコレートやケーキを一緒に食べ始める。とりあえず、しばらく朝ごはんはチョコレートやクッキーといったものになりそうだ。
ううん・・美味しいのは美味しいけど、毎朝これだとお腹周りがどうなってしまうか心配だ。忍足さんは部活で消費できるからいいけど、私は消費する機会なんてない!

少し心配になりながらも、学校へと向かう忍足さんを玄関まで送りに行く。
ドアに手をかけた忍足さんが、「あ」となにか思い出したような顔をしてこちらを振り返る。



「はい?」


それはもう、にかりと悪戯っ子のような笑みを浮かべて。


「お返しちゃんとするから、待っててな」


・・・ん?

言葉をよく理解できずに、「ほな、行ってくるわ」と言う忍足さんの背中を無意識に手を振りつつぼんやりと見つめる。

お返し?

私に、だろうか。
・・他の女の子にお返しをするなら、私になんて言わないよね。

・・・・・・まさか・・!!


キッチンに慌しく走って向かい、勢いよく冷蔵庫を開ける。そして、昨日奥へとしまい込んだティラミスを探すが――一向に、見つからない。


「う、そ・・!」


ずるずる、と冷蔵庫を背もたれにして座り込む。最悪だ、忍足さん見つけちゃったんだ!いや、最悪って訳ではないんだけど・・すっごい恥ずかしい!それならちゃんと渡すんだった!あの時直接渡した方が、こんな見つかり方するよりは何倍もマシなのに!うわあ、すっごい恥ずかしい!


「(お返し・・)」


忍足さんは確かに、『お返し』をしてくれると言った。そんな、お返しなんていらないのに。私なんかがもらってしまっては、他の女の子に悪いじゃないか!――あ、でも、お返しできる範囲でお菓子をくれた子たちにお返しするって言ってたっけ。いやいやでもでも、悪い!なによりすっごく恥ずかしい!うわあ、なんかもう消えてしまいたい!

そういえば・・忍足さんって、好きな人とか・・彼女とか、いるんだろうか。
・・彼女は多分、いないよね。そんな話聞いたことないし、そういう素振りもないし。
でも好きな人だったら、きっといるんだろうな。学年1可愛い女の子とか・・マネージャーさんとか。クラスでもモテモテなんだろうな。あんなかっこいい人、女の子達が放っておく訳ない。きっと毎日のように告白されて・・
ああ、忍足さんに好かれている子は、幸せだなあ。


「(・・・)」


・・・。


「(・・・)」


・・・私今、なんて思った?
”忍足さんに好かれてる子は、幸せだなあ”
・・・そんな風に、思った?

・・・・べ、別に、そんな、やましい思いはない!うん、単純にそう思っただけだ!だってあんなかっこよくて優しい人に好かれて、嫌な人がいたら会ってみたいくらいだ!だから別にその、忍足さんの好きな人になりたいとか、別にそういうことは絶対思ってない!本当に、これだけは誓える!別に単純にそう思っただけであって、・・


「(・・もうやだ。バイト、行こう・・)」


ようやく冷蔵庫を背もたれに体育座りしていた格好から立ち上がり、ため息を1つつく。

最近の私は、なんだかわがままだ。
忍足さんのお家に住まわせてもらっている身なんだから、こんなわがままなこと思っていては駄目だ。

忍足さんにそんな想いを抱いて、迷惑になってしまっては、絶対に駄目なのだ。


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