「あ、おはようございます!」
「ん?・・お、おはよう」


忍足さんは私が起きていることに驚いたのか、少し間を抜けた顔をした。

知る人ぞ知る、今日は忍足さんの学校の体育祭だ。氷帝学園っていうのは割と有名な私立校らしいのだが・・私はよく分からない。
とにかく今日、忍足さんは体育祭がある訳で・・最後の微調整もあるため、いつもより早く学校へ行くらしい。
そこでだ!私は忍足さんにお弁当を作って差し上げようと思ったのだ!
あれから優子さんにちょびちょびと料理を教わっていたのだが、忍足さんにお弁当を作ってあげたいということを伝えるとお弁当にぴったりな料理も教えてくれた。本当に、優子さんには感謝してもしきれない。

それで、頑張って早く起きてお弁当を作ってみたのだが・・忍足さんは受け取ってくれるだろうか。
忍足さんは普段はコンビニで買ったり、購買に行ったりしてるらしいのだが体育祭でそれは少し寂しいだろう。
普段からお弁当くらいは作ってあげれるようになりたいと思っていたのだが、どうなんだろう。やっぱりいらぬことをしてしまっただろうか。



「なんや、まではよ起きることなかったんに」
「・・あの、ですね」
「ん?」
「――っこれ!作ったんです!どうぞ!」


背中に隠していたお弁当をばっと忍足さんに差し出す。うう、「いらんわーい!余計なお世話じゃーい!」とか言われてしまったら、どうしたらいいのだろうか・・!
びくびくしながらも忍足さんの出方を待っていたのだが、忍足さんは一向に動かない。・・ど、どうしたというのだろう。


「――、・・っ」
「忍足・・さん?」
「ほんっまに嬉しい!おおきに!!」


私の手ごと掴みながら、少し赤くて、でもとても真面目な顔でお礼を言う忍足さん。
・・よかった!!なんだか喜んでくれたみたいだ!


「よかった。いらないとか言われたらどうしようかと思いました」
「そんな言う訳ないやろ!!ほんっまに嬉しいわ!!これで優勝間違いなしや!」
「大げさですよ!でも、頑張ってくださいね」
「おおきに!ありがとうな!」


私の手をぎゅうう、と握り締め忍足さんはにこりと笑った。

本来ならばここで「私も応援しに行きますね」とか言いたいのだが・・前に、食卓で体育祭を見に行ってもいいかと聞くとすごく微妙な顔をされてしまったのでそれ以上お願いすることが出来なかった。
でもでもでも!少しくらいなら、見に行ってもいいんじゃないだろうか。幸い今日は日曜日、バイトも休みだし・・(そういえば慈郎くんも今日が体育祭って言ってたなあ)

・・要するに、バレなきゃいいだろう。という結論に至った訳である。ちょいワルだ。今流行のちょいワル気分だ。


お弁当ついでに作った朝食を忍足さんと一緒に食べ、準備が出来た忍足さんを玄関まで見送りに出る。完璧だ。今のところバレてはいない。
忍足さんから貰った体育祭のパンフレットには、開始時刻は9時と書いてあったので・・うーん、大体1時頃に行けばいいかな。午後の方がメインの種目多いみたいだし。

それにしても忍足さん、パンフレットをくれておいて体育祭には来るな(とは言ってないけど)なんて・・軽く拷問だ。新手の嫌がらせか。
パンフレットには最寄り駅から学校までの道のりも書いてあるし、なんとかたどり着けるだろう。

そんなこんなで私はお皿を洗ったり洗濯物を干したりテレビを見たりしていたのだが、うずうずしてたまらなくなって来てしまった。もう行ってもいいだろうか。
時計を見上げれば、すでに11時を過ぎていた。・・予定より少しばかり早いけれど、いいや!行ってしまおう!



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