借り人競争が終わり、100mの決勝戦が行われ、最終種目の選抜リレーが行われようとしている。結局今のところ忍足さんを見つけることは出来ず、次の種目に出てくれることを祈るばかりだ。
とは言っても、団対抗の選抜リレー・・。このリレーに選ばれるには相当足が速くなければならないだろう。忍足さん、足は速いのかな。見た感じでは運動も出来そうだけれど、勉強の方が似合うというか、しっくりくるというか。

軽快な音楽に合わせて選手がどんどん入場してくる。その瞬間に湧き上がる黄色い悲鳴。それもそうだと納得する。だって、遠目から見てもあの人たちは身に纏うオーラが違うのだ。きらきらしているというか、自信に満ち溢れている感じである。

――ひときわ目立つはちみつ色の頭がふわりと揺れる。

ふわふわとカールした髪の毛が風になびいて静かに揺れた。

よく知った顔。この世界での数少ない、私の友達。

慈郎、くんが。

慈郎くんが、そこにはいた。


「〜っ、じろ、くん・・」


慈郎くんも、氷帝学園に通っていたんだ!なんていう偶然だろう!うわあ、すごいテンションがあがってきた!もしかして慈郎くんと忍足さん、仲良かったりするのかな!
当の慈郎くんは『2』の番号を書かれたゼッケンを着て、周りの生徒と話しながらも足を伸ばしたり首を曲げたり、時折彼の名を呼ぶ声援に手を振ったりしている。
今日の慈郎くんは、すごくきらきらしてる。暑いのかうっすらと頬を染め、邪魔にならないようにか前髪をピンで留めておでこを出している。その髪型が、いつもと違う髪形が、思わずかっこいい、なんて思ってしまった。


『競技説明をします。
 選抜リレーは、各学年5人ずつ選出され合計15名で行われる団対抗リレーです。
 走者は半周の100mずつ走り、アンカーの人は1週の200m走ります。
 第1走者はセパレート・・』

ふむ、なるほど。どうやらアンカー以外は半周ずつ走るらしい。2番目に走る慈郎くんがこっちにいるという事は、スタートは反対側なのだろう。
ぎらぎら光る太陽に少し目を細めながらもスタート地点の方を見てみる。――あ、さっきの青年がいる。遠目でも分かる。あれはきっと借り人競争の青年だ。やっぱり足が速かったんだなあ!
青年は『3』のゼッケンを着ている。・・こんなにもゼッケンが似合う人、初めて見たぞ。
その青年が同じく『3』のゼッケンを着た隣の生徒を小突く。まけねえぞ、とでも言っているのだろうか。小突かれた生徒は、不敵な笑みを浮かべて青年を振り返っ・・・・・・・・・・・・・・、忍足さん!?

忍足さんだ!忍足さんがいる!あの眼鏡、紺色の髪の毛は間違いない!やったあ、やっと見つけられた!こんな時だけ2.0の視力に大感謝である!うわあ、すごい、嬉しい!忍足さんやっぱり運動できるんだなあ。凄いなあ・・!


『それでは第1走者の人は位置についてください』


向こう側で黄色い悲鳴が増大する。なぜかこちらまでドキドキしてきてしまう。うーあーあー、がんばれ、忍足さん!慈郎くん!


『位置について・・よーい!!』

パァン!


選手が勢いよく走り出す。
まだセパレートコースだからどこのチームがリードしているかは分からないが、どのチームの選手もものすごく速い。とくに茶髪の人、すごく速い!
スタート時点では3位だった茶髪の人は、カーブで一気に追い上げて1位と並んだ。同じく2位のチームも並んだ。つまりは3人とも並ぶように走っていて差はないと言ってもいいだろう。

茶髪の人はそのまま慈郎くんに向かって風を切るように走っていく。次郎くんは茶髪の人に大声でなにかを言って、腕をぐるりと回す。そして一旦俯いて、きゅ、と前を見据える。その瞬間、次郎くんは飛ぶように走り始めた。

リードが、上手い。
普通リレーのリードは減速してしまうものだが、慈郎くんは、どんどん加速していく。そしてリードの距離をぎりぎりまで走りぬけ、しっかりとバトンを受け取った。


「慈郎くんっ!頑張れ!!」


この声援のなか、私の声なんて届かないかもしれないけど。自然と、声が溢れた。胸の奥から熱がこみ上げてくる。ああ、この感じ久しぶりだなあ!

慈郎くんはぐいぐい他のチームと差をつけていく。3位の走者とは見て分かる程の差が開いたが、2位の走者との差はまだ数10センチだ。

そんな中、バトンが次の走者へ渡される。


「忍足さん!!頑張って!!!」


忍足さんのチームは2位だ。そして青年のチームは3位。忍足さんの髪が風を受けてひらひらと波打つ。青年の走りはこう、一直線に突き進んでいく印象を受けるのだが忍足さんの走りは、速くて、綺麗だ。

3チームの差は大して変わらないまま次の走者へバトンが渡る。
走り終わった忍足さんは空を仰ぐように上を向き、片手で目を覆いながら肩で息をしている。青年はその横で膝に手をつき荒く呼吸を繰り返す。
2人がなにやら言い合っているのは見えたが、何を言っているのかは分からない。ああ、忍足さんにお疲れ様!って言いたいなあ。忍足さん、すごく速かった!もちろん慈郎くんも、借り人の青年も!


「わあああ!いけー!!」
「頑張って!!負けないでー!」
「フレー!フレー!!ブーラーン!!」


さまざまな声援を背後に感じながら、ゆっくりグランドの後ろへ下がっていく。
私が見れるのはここまでだ。忍足さんに姿を見られると面倒なことになってしまうし、何よりそろそろ夕飯の準備をしたい。今日は体育祭だったのだ。とびきりのご馳走を作ってあげたい。・・といっても、忍足さんはクラスの打ち上げに行くかもしれないが。まあ、その時は1人で贅沢をしちゃおうという魂胆である。1日ぐらい、良いよね。


『1位、ルージュクラス!!おーっと、ノワールもブランも負けてはいない!これは世紀の接戦です!』


なんだかちょこっと切ない。私も高校生活を送ってみたかったな。友達とくだらないことで笑って過ごしたい。そして時には今日の体育祭のように燃え上がって。

――忍足さんや慈郎くんが、羨ましいな。


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