世間体なんて関係ない。今の時代そんなの気にしてちゃ生きて行けない。あ、ただご主人さまの命令は絶対だけど。

準備だって万全だ。忍び込んで10分で任務完了してやる!

ご主人さまからの命令。それは立海城に忍び込んで城主・幸村精市の持つアクアマリンを盗むこと。なんでも幸村精市の持つアクアマリンは世界で1つしかない、特別な者でありかなりの値打ちがあるらしい。

その任務を、シーフの長である私にご主人さまは任された。ここは必ず成功させなければ!ご主人さまを喜ばせなければ、っていうのもあるし、なによりお仕置きが怖い。うう、考えるだけで震えが止まらないぞ!あのお仕置き専用の監獄に入って、無事に出て来た人を私は見たことがない。聞こえてくるのは悲鳴、泣き声、叫び声ばかりだ。・・生き地獄。その言葉がしっくり来るような場所らしい。

立海城の屋根裏に忍び込み、ターゲットの部屋まで移動する。ご主人さま達のお城も中々ご立派だけれど、立海城もそれに負けない位立派だ。
ふふん。忍び込むのは得意中の得意だ。ガードマンに見つかることもなく無事立海城に入ることが出来た。ガードマンに見つかってちゃ、そんなのは素人だ。私にとっては何てこともないのだ。そういった人間だ。

そっと板を外し、ターゲットを確認する。ターゲット・幸村精市はベットでぐっすりと眠っている。ふはは、最強と名高い幸村精市もこの私、にかかればちょろいもんだ!

アクアマリンは幸村精市の首元にかかっている、というのも既に調査済みだ。今は見えないがきっと洋服の下に隠れているのだろう。


「(とうっ!)」


くるりと1回転し、華麗に着地する。うむ、100点満点だ。あ、勿論音は一切立てていないのでそこのところは気にしないでいただきたい。こちとら生まれてからずっとシーフを勤めているのだ。ぷろと言っても過言ではないぞ!うむ!

さっと素早くベットに駆け寄り、幸村精市に跨り睡眠薬をたっぷり染み込ませた布で呼吸器を塞ぐ。そして胸元のアクアマリンを素早く奪い取った。

・・予定ではこうなる筈だったのだ。


「で、君は誰かな?」


幸村精市に跨った筈なのに、何故私の上に幸村が居るのだ。
そして、喉元に突き立てられた鋭く光る短刀。
月の光に妖しく照らされた幸村精市の顔が、にこりと不気味な位の笑顔を浮かべた。


「・・ぐっ」
「何の目的?雇い主は?」
「(誰が言うか!ばーか!)」
「生意気な目だね。そそられるけどさ」


その言葉にぞくっと背中が震えた。この目、ご主人さま達が私を叱る時の目によく似ている。


「これが目的かな?」


幸村精市が短刀を私の首元に添えつつ片手で自分の胸元を指差した。そうです、図星です。思わず唇を噛み締めた私を見て、幸村精市はさらに笑みを深めた。


「残念だったね」


なに、こいつ、きちく!ちょうむかつく!
耳元で囁かれたその言葉にムカムカと腹が立つ。ポケットに隠し持っていた小刀で幸村精市の首元を切ろうと腕を振り上げたが、それは彼の持っていた短刀に弾き返されて失敗に終わった。


「とりあえず、ゴウモンでも受けとく?」


にこっと笑った幸村精市に再度震えがこみ上げる。ご主人さまのとどっちのがマシなんだろう、なんて一瞬でも考えてしまった自分を殴りたい。




My Beloved Prisoner
(これが彼女と僕らの出会いだった)


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