がしゃり。

腕と足についた鎖が動くたびに音を立てる。どうにかならないものかと思い観察を繰り返したが、どうやら鍵がないと取り外しは不可のようだ。・・いや、いつか解決策を練りだしてどうにか脱出するつもりではあるが!


「見たところ、君は重宝されていると見た」


あの鬼畜男こと幸村精市がそう告げたのは昨日のこと。窓がないので時間が分からないが、大体夜だったと思う。
幸村精市がやってくるまでの長い時間、私は今よりも酷い状態のまま放置されていた。敵の間者だから当たり前かもしれないが、頭の上で縛られた鎖はそのまま天井に吊るされ、地面に足は着くものの無駄な動きを取れない仕組みになっていた。
こんなことをされたのはご主人さまのお仕置き以来だ。なんとか逃げ出せないかと試みたが、こんな状態では何も出来ない。仕方なくじっとしていること数時間、幸村精市があの笑顔を浮かべつつやって来たのだった。


「君から奪った、このナイフ」


そう言って幸村精市はポケットから私の愛用している小刀を取り出した。いつの日かご主人さまから貰った小刀。貰って以来肌身離さず持っていたというのに、あの日幸村精市に奪われてしまった。



「ご主人さま、これ・・?」
「それがお前を護る最後の武器だ」
「!貰っていいんですか!?」
「なくさずに持っときぃや」
「それを奪われた時は死ぬと思えよ」
「やったー!ありがとー!!」
「敬語使え。敬語を」
「いたっ」



ご主人さまたちに口々に釘を刺されながらも貰った小刀。その小刀には――


「これ、氷帝の紋章だよね」


そう。ご主人さまのお城の紋章が埋め込まれていたのだ。

ふっと頬を緩める。ピンチに陥ったらとりあえず笑っとけ。岳人さまがそう言っていたのを思い出す。
勿論内心はピンチだ。小刀を奪われた時点で終わった、とは思ったが・・もし任務が失敗したことがバレたら・・どうなるか分からない。


「違うかもしれないよ?私が氷帝城から盗んだのかもしれない。第一それが本物だなんて証拠はないでしょう」
「自分の城の紋章が入った武器を持たせるだなんて、相当の信頼があるに違いない。こうやって武器を奪われた時に自分の身元が分かるからね。自殺行為だ」


くっ・・さすが鬼畜男!スルーときたか!!


「見たところ君は幼い」
「幼いって!失礼な!私は立派なレディーだぞ!謝れ!」
「幼い君にコレを持たせ――奪われることを想定して持たせたんだろう。君の命が助かる様に。自分達に連絡が来るように、ね」


幸村精市の暴言に腹を立てるが、当然のごとくスルーされた。こんな屈辱初めて受けたぞ!こいつ絶対に許さない!

・・ご主人さまたちが、私にそこまでのことを思って武器を持たせたのは本当だろうか。・・断言する。絶対そんなことありえない。ご主人さまたちったらシーフの扱い悪いからな。給料あげてくれと頼んでも「アーン?もう1回言ってみろ」って剣に手をかけて睨まれるし。どうせうっかり紋章つきのを渡してしまったのだろう。ご主人さまちょっとボケてるところあるから。・・あ、くれぐれも今のは内密に扱って欲しい。殺されかけない。


「そこで、君を捕虜にする」
「ほ、りょ・・」
「そう。殺されないだけありがたいと思ってね」


にっこりと、幸村精市が笑顔を浮かべる。

捕虜、だなんて。拷問を受けて牢獄に閉じ込めてくれた方が何倍マシだろうか。捕虜なんて、シーフの恥だ。ご主人さまたちの重荷にもなって――いや、ならないか。ご主人さまたちなら私のことなんて華麗にスルーしてくださるだろう。


「捕虜と言っても、余計な動きをしたら」
「・・っ」
「すぐに、殺しちゃうけどね」


幸村精市のその瞳に、思わず背中に冷たいものを感じた。
彼は、本気だ。きっと私が幸村精市を今ここで殺そうと試みるならば、幸村精市も今ここで私を殺してしまうだろう。


「まあ、君に俺のことが殺せるとは思えないけど」
「・・素早さなら、負けないもん」
「はは、俺が君より劣っているものがあるとでも?面白い冗談だな」
「・・・・・・・・・・・」


今すぐ殴りたい衝動に駆られたが必死に固く拳を握り締めて耐える。がしゃり。頭上の鎖が小さく揺れた。そう、我慢だ私。こんな奴相手にするだけ無駄なのだ。大人になってやろうじゃないか!大人は子供の挑発には乗らないのだ。


「まあ、これからよろしくね」
「・・よろしく。短い間だとは思うけれど」


私がまともな受け返しをしたのに、幸村精市は少し驚いたような顔をした。ふはは、大人は子供の挑発に乗らないのだ。華麗に受け流してやるんだ。今から私は何を言われたって怒らないぞ!大人らしく対応してやる!


「よく出来まちたねー、えらいでちゅ」
「(っ、・・我慢、我慢!)」
「僕いくちゅかなー?3ちゅ?ああ、偉いで」
「っのやろー!ゆきむらせいいちチビクソ野郎ー!黙っていれば調子に乗りやがって!」
「ははは、怒った怒った」


大人はね!時には子供を叱ることも大切なんだ!!


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