千鳥

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  03  


また、だ。ここは、あの人が居た世界だ。息苦しい胸元を握り締め、何処までも白い世界を歩く。


「(これ・・進んでる、のかな)」


延々と同じ景色が続くことに不安を覚える。もう、あの人に会えないのだろうか。そう、絶望に支配されようとした時、遠くに人影が見えた。
片方の足は曲げ、もう片方の足は伸ばし、右手で顔を覆い隠す。絶望しているような、その姿。


「っ!」


あの着物は、間違えようがない。
もつれそうになる足を必死に動かして、徐々にその影へ近づいて行く。そして、あと数メートルというところで足を止める。自分の荒い息を感じながらも、彼に伝える言葉探す。


「此処に、居た」


いつか彼が言ってくれた言葉。彼は私の言葉に反応し、ゆっくりと顔をあげる。

なんだか切なくて、彼に静かに踏み寄る。彼の手が滑らかに動き、私の頬に触れた。


「真も 理もない世界で――」


不意に引き寄せられて、私は彼の胸元へ顔を埋める。


「貴方だけが 必要だ」


小さく、低く呟かれたその言葉に安堵を覚える。彼の着物を握り締めて、ずっとこのままで居たかった。


「ずっと、一緒に居て・・くだ、さい」


苦しい。彼との別れが、着実と迫って来ているのが私には分かっていた。これは私の夢、きっともうすぐ覚めてしまう。今覚めてしまったら、今度はもう彼に会えないかもしれない。
顔をあげ、懇願する様に彼を見上げる。そんな私に、彼は優しく頭を撫で、そっと微笑んだ。


「言うまでも ない」






Take me to the end of the world.




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